2023年5月9日火曜日

そういやそうだったってやつ。

 科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌 第75話 ――マンガクロス

 常にえっちなのと思想がすごいのはまぁいいとして、この世界観が本当に好きすぎる。

 ヤギの人に言われて思い出したけど、パピって両親が消息不明で、しかも「親がいない」ってのはパピの自己申告「寂しくて、たまたま見かけたラアの里に来た」をルピーのエアーリーディングで読み取っただけの不完全な情報から、それをさらにダイスケたちが勝手に解釈しただけの話なんだよな。
 ドラゴンの成体の知能が人類を凌駕している可能性が提示されている以上、ドラゴンパピーの知能が文字通り人類の子供レベルであるとするのは、言われてみれば人類側の思い込みによる誤りである可能性が高い。
 ぶっちゃけ、余裕で騙す演技くらいしてそうよな。
 今回の話で、ダイスケにそうなのか? って言われて、こびるように鳴くのも、なんか怪し気に見えてくるから困る。

 そもそも以前から、パピが本当にファイヤードラゴンだとすると、パピの親ドラゴンが子供を守ってる防衛本能ガンギマリの状況で殺されることはあるのか、殺したのだとしたら、それを成し遂げたのは何者なのかっていう、あからさまな疑問はあった。

 作中、メインの転移者であるダイスケと織津江の転移のタイミングは、少しずれているのは明らかなので、パピの親を殺したのは織津江説もあったけど、しかしヤギがあれだけ慌てるとなると、そういうのとはまた別の話になってくるのかもしれん。
 そもそも親が人間に殺されたのであれば、知能が高いと思われるパピが人間のダイスケに甘えるはずはないのではないか。と思う一方、知能が高いがゆえに、何か思惑があって傍にいる可能性もあるということになる。たとえば、仇が人間であるのなら、それと敵対しそうな集団を発見し、力をつけるまで雌伏し敵を観察するとかね? でも仇の種族に甘えるわけがない誇り高さがあるんだよな、ドラゴンには。とくにファイヤードラゴンは、そう思えるだけのシーンも十分にあるから、犯人は織津江説ってのはなかなかに難しくなる。
 それに、ヤギの人の口調では、パピの思惑というよりも、パピの存在そのものが危険をはらんだものであるかのような言いぶり(「恐るべきものを 連れておるな!! それが 何かも 知らずに!!」)だったわけで、親の敵討というような次元ではないんだよな。
 それプラスして、パピを見たキャタピラーたちの反応も、こうなるとまともなものだったのかどうかということに。

 こういう話が出てくると、パピはもしかしたら、世界のルールを決めている何者かに送り込まれたセーフティかもっていう疑惑が、個人的に再燃する。

 そもそも大前提として、この作品には禁忌という概念があって、その内容は『火薬』『蒸気機関』『内燃機関』『電動機械』これら四つの技術の使用を禁止するもの。
 これらが現実世界での近世以降、急速に起きた連鎖的なブレイクスルーを狙い撃ちしてることから、作中における重要な設定であるこの『禁忌』は、世界のルールを決める何者かが送り込んだ歴代の異世界人たちがもたらした『かつての新技術』だった可能性がある。
 意図しないほどに世界が発展しすぎることを懸念した『ルールを決める存在(通称KAKERU)』が、それら技術が世界にもたらされ、文明発展のスピードが速度超過をしそうになるたび、モンスタースタンピードでその新技術をきれいさっぱり消し去って、都度『禁忌』にしてきたのではないだろうか。

 そう仮定してみると、異世界からの転移者は、特定の技術革新を狙ったピンポイントで送り込まれてるっぽいんだよな。
 なぜなら、『禁忌』の中身はみんなが把握していて、かつ、それ以前に送り込まれた異世界人が複数知られていて、しかも異世界人は「神の宝珠と呼ぶべき価値ある未知の知識を持っている可能性が大」というような共通認識があるにもかかわらず、なぜかみんな中世の水準で(西暦1000年くらいの欧州っぽい)生活をしているという現状がある。
 異世界人の知識によって世界は発展しているはずなのに、実際には中世から抜け出せていないという事実からは、異世界人によって過去にもたらされたもの=その多くが禁忌として消し去られてきた、ということが推測できる。
 しかし生活水準は低いのに、鎧や武器の水準(冶金技術も含めて)は火薬登場寸前のレベルだったり、世界共通言語として日本語が使用されていたり、でも哲学や知識のみの発展(ケンタウロスの人類研究や、多様な宗教、エルフの世界そのものに対する思索)は一切阻害されておらず禁忌扱いもされていない等々、あからさまなちぐはぐさを感じるのは、きっとこれが理由。異世界人にもたらしてほしい技術や知識、制度があって送り込んだけど、意図しないままにもたらされた余計なものは、禁止にしたってこと。
 そして。
 そうして禁忌を設定したまではよかったけど、禁忌のもたらした重篤な副作用として、あまりにも文明の発展が停滞してしまったがゆえに、それを打破するために今回送り込まれたのが、ダイスケたちなんかなって思うわけ。
 二人の持っている知識は、禁忌を回避するための方策として、あまりにもピンポイントすぎる。しかも、二人はその知識を持ちながらも、その道の専門家ではないというのもある。
 ダイスケは、新しい技術を生み出すための概念としての気づき(ダイスケはそれを『奥義』としてサシヨイ村の人々に伝授した)を普及することに熱心だし、織津江は徹底的な作業効率の追求によって『文明の発展するスピード』を改善しまくっている。
 二人は、一見して同じようで、でもちょっとずつ違うようで、でも本筋としては同じものを異世界にもたらしているんだよね。それは、「禁忌を回避して発展させ得る文明の方向性がある」と知らしめることによって遂げられる『禁忌があるために現状打破ができない』という思い込みのブレイクスルーに他ならない。
 禁忌という概念によって人類文明は閉塞している、という思い込みは、過去の異世界人がもたらした功罪両面を表している。「異世界人の知識はすごい!」という思い込みが、あの世界の文明の発展を阻害していた。(前述した文明的な停滞感もそうだし、作中でも、オノケリスたちが禁忌のもたらす精神の袋小路に陥り始めていて、破滅願望を暴発しかけていたことが示唆されていた)
 今回のダイスケたちの転移は、そういった世界の停滞をピンポイントで打破するための転移だったのかもしれんね。

 そうして禁忌を回避して発展できる技術の方向性を示したまではいいとして、それ以上になることを恐れた『ルールを決める存在』から送り込まれたセーフティとしての存在が、『パピ』ってことになるのかも。
 ダイスケの活動によって、文明が発展しすぎたときに、それらを抑止するための存在として、送り込まれてきた、とか。
 さらにいえば、パピという存在がダイスケにあって、織津江にそれと同義の存在がいないのだとすると、正式に送り込まれた異世界人は織津江の方で、巻き込まれたイレギュラーなのはダイスケ(その他)ということになるのかも。二人の知識レベルが同じだったからまぁいいかで、でもおかしなことすればいつでも始末できるように、パピをダイスケの傍にいさせてるのかもしれん。
 生葦と芸鋤(未登場)は、現状、世界に対する影響力を心配されてないということにもなるかのかも。
 
 つーかヤギの人の言うことが、いつか現実になるとすると、『クリ娘』はやっぱり『ふかふかダンジョン』より前の話になるのかな。
 ゴーレムの時に出てきた『ダンジョン』の話と、『深き不可知の迷宮』は、あきらかに別なんだよな。クリ娘のダンジョンは『完全にファンタジー』なんだけど、ふかふかダンジョンは『ファンタジーとしか思えない技術レベルを有していたと思われる超古代文明の痕跡』で、全然違う。これ、魔王かハーレム王の国の未来なんちゃうんかって思ってたところの、今回の示唆ということになるわけで、やはり過去説が強くなっていくのか。

 それ以前に、もっと細かい話で、魔王織津江とハーレム王ダイスケの時間のズレはどれくらいなのかも気になる。
 生葦君は織津江と同時間なのが確定してて、しかも共和国側が滅ぼされるの確定演出(見開きで対決させておいて、織津江の方がデカくて上手、生葦は小さくて下手)されちゃったから、魔王軍に蹂躙されんだろうなとは思うけど。
 
 ここのところ、思想に偏りすぎてきてうーんと思っていた矢先に、ヤギの人たちが実は悪魔じゃなかった件にパピ問題を絡めてきて、初期の伏線に燃料再投下された感じする。話の作り方がホントうまいというか、性に合う。
 
 ちなみに、倉井はタウラちゃんが好きです。