雫月集(和歌古典 個人的まとめ)

 和歌の個人的まとめ。

【 注 】

 倉井が個人的に「いいなぁ」と思っている和歌の紹介です。

 分類は大雑把に、時期と有名歌集くらいにして、純粋に作者と歌の紹介にとどめます

 そうすることで、和歌の雰囲気だけを味わうことを目的としています。

 またそうした大雑把さを保ちながらも、和歌がどのように変化していったかなどを、大まかに捉えられるように、時期分類ごとの歌集・歌人はおおよそ年代順の登場となります。

 万葉集を除いて、一つの歌集に掲載数の多い歌人は歌集の方で。逆に掲載数自体はそれほど多くない歌人、有名歌集を横断しなければならないような歌人、掲載歌集自体が一般的な視点で言うとわりとマニアックな歌人、または個人的に好きな歌人などは独立しています。その際にも、上述の大雑把なルールのもとでの掲載になります。

 歌の作者の経歴や歌意は、よそのサイト様にお詳しい方々が溢れていらっしゃいますので、そちらでご確認いただければ幸いです。

 随時更新中。(令和6年1月現在)


【 上代・万葉集 ※五十音順】

[阿部継麻呂 あべのつぐまろ]

 玉敷ける 清き渚を 潮満てば 飽かず我れ行く 帰るさに見む ――巻15・3706


[有間皇子 ありまのみこ]

 磐代の 浜松が枝を 引き結び ま幸きくあらば またかへりみむ ――巻2・141 

 家にあれば 笥に盛る飯を 草枕 旅にしあれば 椎の葉に盛る ――巻2・142 


[市原王 いちはらのおおきみ]

 春草は 後はうつろふ 巌なす 常盤にいませ 貴きわが君 ――巻6・988

 言問わぬ 木すら妹と兄と ありといふを ただ独り子に あるが苦しさ――巻6・1007

 一つ松 幾代か経ぬる 吹く風の 音の清きは 年深みかも ――巻6・1042

 時待ちて 降れるしぐれの 雨やみぬ 明けむ朝か 山のもみたむ ――巻8・1551

 梅の花 香をかぐはしみ 遠けども 心もしのに 君をしぞ思ふ ――巻20・4500


[生玉部足國 いくたまべのたりくに]

 父母が 殿の後方の ももよ草 百代いでませ 我が来るまで ――巻20・4326


[大海人皇子/聖武天皇 おおあまのおうじ/しょうむてんのう]

 紫草の にほへる妹を 憎くあらば 人妻ゆゑに 我恋ひめやも ――巻1・21


[大神郎女 おおみわのいらつめ]

 さ夜中に 友呼ぶ千鳥 もの思ふと わびをる時に 鳴きつつもとな ――巻4・618


[大伴像見 おおとものかたみ]

 春日野に 朝居る雲の しくしくに 我は恋ひ増す 月に日に異に ――巻4・698

 一瀬には 千たび障らひ 行く水の 後にも逢はむ いまにあらずとも ――巻4・699

 秋萩の 枝もとををに 置く露の 消なば消ぬとも 色に出でめやも ――巻8・1595


[大伴清縄 おおとものきよつな]

 皆人の 待ちし卯の花 散りぬとも 鳴く霍公鳥 我忘れめや ――巻8・1482


[大伴坂上郎女 おおとものさかのうえのいらつめ]

 旅にいにし 君しもつぎて 夢に見ゆ あが片恋ひの しげければかも ――巻17・3929

 月立ちて ただ三日月の 眉根掻き 日長くして 君に逢へるかも ――巻6・993


[大伴旅人 おおとものたびと]

 奥山の 菅の葉しのぎ 降る雪の 消なば惜しけむ 雨な降りそね ――巻3・299

 昔見し 象の小川を 今見れば いよよさやけく なりにけるかも ――巻3・316

 忘れ草 我が紐に付く 香具山の 古りにし里を 忘れむがため ――巻3・314

 我が行きは 久にはあらじ 夢のわだ 瀬にはならずて 淵にありこそ ――巻3・335

 賢しみと 物言ふよりは 酒飲みて 酔ひ泣きするし まさりたるらし ――巻3・341

 言わむすべ 為むすべ知らず 極まりて 貴きものは 酒にしあるらし ――巻3・342

 あな醜 賢しらをすと 酒飲まぬ 人をよく見ば 猿にかも似む ――巻3・344 

 価なき 宝といふも 一杯の 濁れる酒に あにまさめやも ――巻3・345

 美しき 人の纏きてし 敷栲の 我が手枕を 纏く人あらめや ――巻3・438

 世の中は 空しきものと 知る時し いよよますます 悲しかりけり ――巻5・793

 我が園に 梅の花散る ひさかたの 天より雪の 流れ来るかも ――巻5・833

 橘の 花散る里の 霍公鳥 片恋しつつ 鳴く日しぞ多き ――巻8・1473

 我が岡に さお鹿来鳴く 初萩の 花妻どひに 来なくさお鹿 ――巻8・1541

 我が岡の 秋萩の花 風をいたみ 散るべくなりぬ 見む人もがも ――巻8・1542

 沫雪の ほどろほどろに 降りしけば 奈良の都し 思ほゆるかも ――巻8・1639


[大伴千室 おおとものちむろ]

 かくのみし 恋ひやわたらむ 秋津野に たなびく雲の 過ぐとはなしに ――巻4・693


[大伴百代 おおとものももよ]

 梅の花 散らくはいづく しかすがに この基の山に 雪は降りつつ ――巻5・823


[大伴家持 おおとものやかもち ※万葉集最終編纂者]

 妹が見し やどに花咲き 時は経ぬ 我が泣く涙 いまだ干なくに ――巻3・469

 佐保山に たなびく霞 見るごとに 妹を思ひ出 泣かぬ日はなし ――巻3・473

 なかなかに 黙もあらましを 何すとか 相見そめけむ 遂げざらまくに ――巻4・612

 忘れ草 我が下紐に 着けたれど 醜の醜草 言にしありけり ――巻4・727

 振仰けて 若月見れば 一目見し 人の眉引 思ほゆるかも ――巻6・994

 うち霧らし 雪は降りつつ しかすがに 吾家の園に 鶯鳴くも ――巻8・1441

 さを鹿の 朝立つ野辺の 秋萩に 玉と見るまで 置ける白露 ――巻8・1598

 このころの 朝明に聞けば あしひきの 山呼び響めよ さお鹿鳴くも ――巻8・1603

 痩す痩すも 生けらばあらむを はたやはた ウナギを捕ると 川に流るな ――巻16・3854

 あおによし 奈良の都は 古りぬれど もと霍公鳥 鳴かずあらなくに ――巻17・3919

 秋の田の 穂向き見がてり 我が背子が ふさ手折り来る をみなへしかも ――巻17・3943

 雁がねは 使ひに来むと 騒ぐらむ 秋風寒み その川の上に ――巻17・3953

 庭に降る 雪は千重敷く しかのみに 思ひて君を 我が待たなくに ――巻17・3960

 あしひきの 山はなくもが 月見れば 同じき里を 心隔てつ ――巻18・4076

 暁に 名告り鳴くなる 霍公鳥 いやめづらしく 思ほゆるかも ――巻18・4084

 焼太刀を 砺波の関に 明日よりは 守部遣り添へ 君を留めむ ――巻18・4085

 春の園 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出で立つ娘子 ――巻19・4139

 もののふの 八十娘子らが 汲みまがふ 寺井の上の 堅香子の花 ――巻19・4143

 春まけて かく帰るとも 秋風に もみたむ山を 越え来ざらめや ――巻19・4145

 あしひきの 八つ峰の雉 鳴き響よむ 朝明の霞 見れば悲しも ――巻19・4149

 朝床に 聞けば遥けし 射水川 朝漕ぎしつつ 唄ふ船人 ――巻19・4150

 言とはぬ 木すら春咲き 秋づけば もみぢ散らくは 常をなみこそ ――巻19・4161

 藤波の 影なす海の 底清み 沈く石をも 玉とぞ我が見る ――巻19・4199

 世間の 常なきことは 知るらむを 心尽くすな 大夫にして ――巻19・4216

 我が宿の い笹群竹 吹く風の 音のかそけき この夕かも ――巻19・4291 


[小野老 おののおゆ]

 あおによし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく いま盛りなり ――巻3・328

 梅の花 いま咲けるごと  散り過ぎず 我が家の園に ありこせぬかも ――巻5・816

 時つ風 吹くべくなりぬ 香椎潟 潮干の浦に 玉藻刈りてな ――巻6・958


[鏡大王 かがみのおおきみ]

 秋山の 木の下隠り 行く水の 我こそ益さめ 御思ひよりは ――巻2・92

 風をだに 恋ふるは羨し 風おだに 来むとし待たば 何か嘆かむ ――巻4・489


[柿本人麻呂 かきのもとのひとまろ]

 東の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月かたぶきぬ ――巻1・48

 矢釣山 木立も見えず 降りまがふ 雪に騒ける 朝楽しも ――巻3・262

 近江の海 夕波千鳥 汝が鳴けば 心もしのに いにしへ思ほゆ ――巻3・266

 山の際ゆ 出雲の子らは 霧なれや 吉野の山の 嶺にたなびく ――巻3・429

 八雲さす 出雲の子らが 黒髪は 吉野の川の 沖になづさふ ――巻3・430

 天の海に 雲の波たち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ ――巻7・1068


[笠郎女 かさのいらつめ ※全て大伴家持に送った恋歌]

 託馬野に 生ふる紫草 衣に染め いまだ着ずして 色にでりけり ――巻3・395

 みちのくの 真野の草原 遠けども 面影にして 見ゆといふものを ――巻3・396

 奥山の 岩本菅を 根深めて 結びし心 忘れかねつも ――巻3・397

 我が形見 見つつ偲はせ あらたまの 年の緒長く 我も偲はむ ――巻4・587

 白鳥の 飛羽山松の 待ちつつぞ 我が恋ひわたる この月ごろを ――巻4・588

 衣手を 打廻の里に ある我を 知らにぞ人は 待てど来ずける ――巻4・589

 あらたまの 年の経ぬれば 今しはと ゆめよ我が背子 我が名告らすな ――4・590

 我が思ひを 人に知るれか 玉櫛笥 開きあけつと 夢にし見ゆる ――巻4・591

 闇の夜に 鳴くなる鶴の 外のみに 聞きつつかあらむ 逢ふとはなしに ――巻4・592

 君に恋ひ いたもすべなみ 奈良山の 小松が下に 立ち嘆くかも ――巻4・593

 我がやどの 夕蔭草の 白露の 消ぬがにもとな 思ほゆるかも ――巻4・594

 我が命 全けむ限り 忘れめや いや日に異には 思ひ増すとも ――巻4・595

 八百日行く 浜の真砂も我が恋に あにまさらじか 沖つ島守 ――巻4・596

 うつせみの 人目を繁み 石橋の 間近き君に 恋ひわたるかも ――巻4・597

 恋にもぞ 人は死にする 水無瀬川 下ゆ我痩す 月に日に異に ――巻4・598

 朝霧の おほに相見し 人故に 命死ぬべく 恋ひわたるかも ――巻4・599

 伊勢の海の 礒もとどろに 寄する波 畏き人に 恋ひわたるかも ――巻4・600

 心ゆも 我は思はず 山川も 隔たらなくに かく恋ひむとは ――巻4・601

 夕されば 物思ひまさる 見し人の 言とふ姿 面影にして ――巻4・602

 思ふにし 死にするものに あらませば 千たびぞ我は 死にかへらまし ――巻4・603

 剣太刀 身に取り添ふと 夢に見つ 何のさがぞも 君に逢はむため ――巻4・604

 天地の 神の理なくはこそ 我が思ふ君に 逢はずしにせめ ――巻4・605

 我も思ふ 人もなお忘れ おほなわに 浦吹く風の やむ時もなし ――巻4・606

 皆人を 寝よとの鐘は 打つなれど 君をし思へば 寐ねかてぬかも ――巻4・607

 相思はぬ 人を思ふは大寺の 餓鬼の後方に 額つくごとし ――巻4・608

 心ゆも 我は思はずき またさらに 我が故郷に 帰り来むとは ――巻4・609

 近く在れば 見ねどもあるを いや遠く 君がいまさば 有りかつましじ ――巻4・610

 水鳥の 鴨の羽色の 春山の おぼつかなくも 思ほゆるかも ――巻8・1451

 朝ごとに 我が見る宿の なでしこの 花にも君は ありこせぬかも ――巻8・1616


[甘南備伊香/伊香王 かんなびのいかご/いかごのおおきみ]

 うち靡く 春を近みか ぬばたまの 今宵の月夜 霞たるらむ ――巻20・4489

 梅の花 咲き散る春の 長き日を 見れども飽かぬ 礒にもあるかも ――巻20・4502

 礒影の 見ゆる池水 照るまでに 咲ける馬酔木の 散らまく惜しも ――巻20・4513


[久米広縄 くめのひろつな/ひろただ]

 めづらしき 君が来まさば 鳴けと言ひし 山霍公鳥 何か来鳴かぬ ――巻18・4050

 木の暗に なりぬるものを 霍公鳥 何か来鳴かぬ 君に逢へる時 ――巻18・4053

 いささかに 思ひ来てしを 多胡の浦に 咲ける藤見て 一夜経ぬべし ――巻19・4201

 家に行きて 何を語らむ あしひきの 山霍公鳥 一声も鳴け ――巻19・4203

 藤波の 茂りは過ぎぬ あしひきの 山霍公鳥 などか来鳴かぬ ――巻19・4210

 このしぐれ いたくな降りそ 我妹子に 見せむがために 黄葉取りてむ ――巻19・4222

 なでしこは 秋咲くものを 君が家の 雪の巌に 咲けりけるかも ――巻19・4231


[碁檀越妻 ごのだんおつのつま]

 神風の 伊勢の浜萩 折り伏せて 旅寝やすらむ 荒き浜辺に ――巻4・500


[志紀大道/算師志氏大道 しきのおおみち/さんしししのおおみち]

 春の野に 鳴くや鶯 懐けむと わが家の園に 梅が花咲く ――巻5・837


[志貴皇子 しきのみこ]

 采女の袖 吹きかへす 明日香風 都を遠み いたづらに吹く ――巻1・51

 芦辺行く 鴨の羽交いに 霜降りて 寒き夕べは 大和し思おゆ ――巻1・64

 石ばしる 垂水の上の さ蕨の 萌え出づる春に なりにけるかも ――巻8・1418


[清江娘子 すみのえのおとめ ※住吉乃弟日娘?]

 草枕 旅行く君と 知らませば 岸の埴生に にほはさましを ――巻1・69 


[但馬皇女 たじまのみこ]

 後れ居て 恋ひつつあらずは 追ひ及かむ 道の隈廻に 標結へ我が背 ――巻2・115

 人言を 繁み言痛み おのが世に いまだ渡らぬ 朝川渡る ――巻2・116

 言繁き 里に住まずは 今朝鳴きし 雁にたぐひて 行かましものを ――巻8・1515


[橘奈良麻呂 たちばなのならまろ]

 めづらしき 人に見せむと 黄葉を 手折りぞ我が来し 雨の降らくに ――巻8・1582


[玉槻/対馬の娘子 たまつき/つしまのおとめ]

 竹敷の 玉藻靡かし 漕ぎでなむ 君がみ船を いつかとまむ ――巻15・3705


[玉作部国忍 たまつくりべのくにおし]

 旅衣 八重着重ねて 寐のれども なお肌寒し 妹にあらねば ――巻20・4351


[中大兄皇子/天智天皇 なかのおおえのみこ/てんちてんのう]

 わたつみの 豊旗雲に 入り日差し 今宵の月夜 清明けくこそ ――巻1・15 


[長皇子 ながのみこ ]

 宵ひに逢ひて 朝面無み 名張にか 日長く妹が 廬せりけむ ――巻1・60 

 霞打つ あられ松原 住吉の 弟日娘と 見れど飽かぬかも ――巻1・65


[長屋王 ながやのおおきみ]

 宇治間山 朝風寒し 旅にして 衣貸すべき 妹もあらなくに ――巻1・75


[嶋足 しまたり]

 見まく欲り 来しくもしるく 吉野川 音のさやけさ 見るにともしく――巻9・1724


[額田王 ぬかたのおおきみ]

 あかねさす 紫野行き 標野行き 野守はみずや 君が袖振る ――巻1・20

 君待つと 我が恋ひをれば わが屋戸の すだれ動かし 秋の風吹く ――巻4・488


[丈部足麻呂 はつせべのたりまろ]

 橘の 美袁利の里に 父を置きて 道の長道は 行きかてのかも ――巻20・4341


[間人宿禰 はしひとのすくね ※間人連老(中臣間人老)とは別人]

 川の瀬の 激つを見れば 玉藻かも 散り乱れたる この川門かも ――巻8・1685

 彦星の 挿頭の玉の 妻恋に 乱れにけらし この川の瀬に ――巻8・1686


[間人宿禰大浦 はしひとのすくねおおうら ※↑と同一人物か?]

 天の原 ふりさけ見れば 白真弓 張りて懸けたり 夜道はよけむ ――巻3・289

 倉椅の 山を高みか 夜隠に 出で来る月の 光乏しき ――巻3・290

 

[三原王 みはらのおおきみ]

 秋の露は 移しにありけり 水鳥の 青葉の山の 色づく見れば ――巻8・1543


[山上憶良 やまのうえのおくら]

 天翔けり あり通ひつつ 見らめども 人こそ知らね 松は知るらむ ――巻2・145

 妹が見し 楝の花は 散りぬべし 我が泣く涙 いまだ干なくに ――巻5・798

 天飛ぶや 鳥にもがもや 都まで 送り申して 飛び帰るもの ――巻5・876

 ひさかたの 天の川瀬に 船浮けて 今夜か君が 我許来さむ――巻8・1519

 萩の花 尾花葛花 なでしこが花 をみなへし また藤袴 朝顔が花 ――巻8・1538
 

[山部赤人 やまべのあかひと]

 ぬばたまの 夜のふけゆけば 久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く ――巻6・925

 春の野に すみれ採みにと こし我そ 野をなつかしみ 一夜寝にける ――巻8・1424


[若桜部朝臣君足 わかさくらべのあそみきみたり]

 天霧らし 雪も降らぬか いちしろく このいつ柴に 降らまくを見む ――巻8・1643


[若舎人部広足 わかとねりべのひろたり]

 難波津に 御船下ろ据ゑ 八十楫貫き 今は漕ぎぬと 妹に告げこそ ――巻20・4363

 防人に 立たむ騒きに 家の妹が なるべきことを 言わず来ぬかも ――巻20・4364


[若湯座王 わかゆゑのおおきみ]

 芦辺には 鶴がね鳴きて 港風 寒く吹くらむ 津乎の埼はも ――巻3・352


[作者未詳]

 月草に 衣は摺らむ 朝露に 濡れての後は うつろひぬとも ――巻7・1351 

 風交り 雪は降りつつ しかすがに 霞たなびき 春さりにけり ――巻10・1836

 さ寝がには 誰れとも寝めど 沖つ藻の 靡きし君が 言待つ我れを――巻11・2782

 明日香川 瀬々の玉藻の うちなびき 心は妹に 寄りにけるかも ――巻13・3267

 我が面の 忘れむしだは 国はふり 嶺に立つ雲を 見つつ偲はせ ――巻14・3515

 対馬の嶺は 下雲あらなふ かむの嶺に たなびく雲を 見つつ偲はも ――巻14・3516

 比多潟の 磯のワカメの 立ち乱え 我をか待つなも 昨夜も今夜も ――巻14・3563

 鯨魚取り 海や死にする 山や死にする 死ぬれこそ 海は潮干て 山は枯れすれ ――巻16・3852



【 王朝期 古今和歌集 ※五十音順】


[在原業平/在五中将 ありわらのなりひら/ざいごちゅうじょう]

・世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし ――巻1・53

・ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 唐紅に 水くくるとは ――巻5・294

・唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ ――巻9・410

・起きもせず 寝もせで夜を 明かしては 春のものとて ながめくらしつ ――巻13・616

・寝ぬる夜の 夢をはかなみ まどろめば いやはかなにも なりまさるかな ――巻13・644

・かきくらす 心の闇に 惑ひにき 夢うつつとは 世人さだめよ ――巻13・646

・月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我が身ひとつは もとの身にして ――巻15・747

・大原や をしほの山も 今日こそは 神代のことも 思ひいづらめ ――巻17・871

・あかなくに まだきも月の 隠るるか 山の端逃げて 入れずもあらなむ ――巻17・884

・抜き乱る 人こそあるらし 白玉の まもなく散るか 袖のせばきに ――巻17・923

・忘れては 夢かとぞ思ふ 思ひきや 行き踏み分けて 君を見むとは ――巻18・970


[在原行平/在納言 ありわらのゆきひら/ざいなごん ※業平の兄]

・春の着る 霞の衣 ぬきを薄み 山風にこそ 乱るべらなれ ――巻1・23

・立ち別れ いなばの山の 峰におふる 松とし聞かば 今かへりこむ ――巻8・365

・こき散らす 滝の白玉 拾ひおきて 世の憂き時の 涙にぞかる ――巻17・922

・わくらばに 問ふ人あらば 須磨の浦に 藻塩たれつつ わぶと答へよ ――巻18・962


[伊勢 いせ]

・春霞 立つを見捨てて ゆく雁は 花なき里に 住やならへる ――巻1・31

・春ごとに 流るる川を 花と見て 折られぬ水に 袖や濡れなむ ――巻1・43

・桜花 春くははれる 年だにも 人の心に あかれやはせぬ ――巻1・61

・浪の花 沖から咲きて 散りくめり 水の春とは 風やなるらむ ――巻10・459

・わたつみと 荒れにし床を 今さらに はらはば袖や 泡と浮きなむ ――巻14・733

・冬枯れの 野辺と我が身を 思ひせば もえても春を 待たましものを ――巻15・791

・人知れず 絶えなましかば わびつつも なき名ぞとだに 言はましものを ――巻15・810

・水の上に 浮かべる船の 君ならば ここぞとまりと 言はましものを ――巻17・920

・たちぬはぬ 衣着し人も なきものを なに山姫の 布さらすらむ ――巻17・926

・久方の 中におひたる 里なれば 光をのみぞ たのむべらなる ――巻18・968

・飛鳥川 淵にもあらぬ 我が宿も 瀬にかはりゆく ものにぞありける ――巻18・990


[凡河内躬恒 おおしこうちのみつね]

・春くれば 雁かへるなり 白雲の 道ゆきぶりに ことやつてまし ――巻1・30

・月夜には それとも見えず 梅の花 香をたづねてぞ 知るべかりける ――巻1・40

・春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそ見えね 香やは隠るる ――巻1・41

・雪とのみ 降るだにあるを 桜花 いかに散れとか 風の吹くらむ ――巻2・86

・我が宿に 咲ける藤波 立ち返り すぎがてにのみ 人の見るらむ ――巻2・120

・梓弓 春たちしより 年月の いるがごとくも 思ほゆるかな ――巻2・127

・憂きことを 思ひつらねて 雁がねの 鳴きこそわたれ 秋の夜な夜な ――巻4・213

・つま恋ふる 鹿ぞ鳴くなる 女郎花 おのがすむ野の 花としらずや ――巻4・233

・心当てに 折らばや折らむ 初霜の 置き惑はせる 白菊の花 ―――巻5・277

・風吹けば 落つるもみぢ葉 水清み 散らぬ影さへ 底に見えつつ ――巻5・304


[小野小町 おののこまち]

・花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに ――巻2・113

・おろかなる 涙ぞ袖に 玉はなす われはせきあへず たぎつ瀬なれば ――巻12・554

・みるめなき 我が身を浦と 知らねばや かれなで海人の 足たゆくくる ――巻13・623

・今はとて 我が身時雨に ふりぬれば 言の葉さへに うつろひにけり ――巻15・782

・色見えで うつろふものは 世の中の 人の心の 花にぞありける ――15・797


[藤原高子 ふじわらのたかきこ]

・雪の内に 春はきにけり うぐひすの こぼれる涙 今やとくらむ ――巻1・4


[坂上是則 さかのうえのこれのり ※日本初のプロサッカー選手蹴鞠うますぎて報償貰った人

・佐保山の ははその色は 薄けれど 秋は深くも なりにけるかな ――巻5・267

・もみぢ葉の 流れざりせば 竜田川 水の秋をば 誰かしらまし ――巻5・302

・み吉野の 山の白雪 積もるらし ふるさと寒く なりまさるなり ――巻6・325

・朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪 ――巻6・332

・刈りて干す 山田の稲の こきたれて なきこそわたれ 秋の憂ければ ――巻17・932


[詠み人知らず]

・春霞 立てるやいづこ み吉野の 吉野の山に 雪は降りつつ ――巻1・3

・梓弓 押して春雨 今日降りぬ 明日さへ降らば 若菜つみてむ ――巻1・20

・折りつれば 袖こそ匂へ 梅の花 ありとやここに うぐひすの鳴く ――巻1・32

・春霞 たなびく山の 桜花 うつろはむとや 色かはりゆく ――巻2・69

・待てと言ふに 散らでしとまる ものならば 何を桜に 思ひまさまし ――巻2・70

・花のごと 世のつねならば すぐしてし 昔はまたも かへりきなまし ――巻2・98

・待つ人も 来ぬものゆゑに うぐひすの 鳴きつる花を 折りてけるかな ――巻2・100

・うぐひすの 鳴く野辺ごとに 来て見れば うつろふ花に 風ぞ吹きける ――巻2・105

・散る花を 何かうらみむ 世の中に 我が身も共に あらむものかは ――巻2・112



【 王朝期・個人 】


[曽禰好忠 そねのよしただ ※中古三十六歌仙

・かご山の 瀧の氷も解けなくに 吉野の嶽は 雪消えにけり

・朝日さす 今朝の雪消に 水まさり 身をうき橋の ゆくゑしら波 

・木の芽はる 春の山辺を きて見れば 霞の衣 たたぬ日ぞなき

・あずさ弓 春の霞みて へだつれど 入るまの山の 峰ぞさやけき

・ははこ摘む やよひの月に なりぬれば ひらけぬらしも 我が宿の桃

・根芹摘む 春の澤田に 下り立ちて 衣の裾の 濡れぬまぞなき

・みやつこぎ おふる垣根を 春立てば 深き緑に 萌えわたりける

・山櫻 はやも咲かなん 吹く風に 峰の白雲 立つかとも見む

・二葉より 見つつなれにし 桜花 なにをうとしと かくす霞ぞ

・わさ苗を 宿もる人に まかせおきて 我は花見に いそぎをぞする

・桜花 見るに心は ゆきぬれば 春はいそぎに 名をぞたてぬる

・なき帰る 雁の涙の つもりをや 苗代水に 春はせくらん

・のどかにも おもほゆるかな 常夏に 久しく にほふ 山となでしこ

・夏衣 うすくや人の 思ふらん 我はあつれて 過すべき日を

・蛙なく 井出の若菰 刈りほすと つかねもあえず 乱れてぞふる

・日暮るれば 下葉お暗き 木のもとの もの恐ろしき 夏の夕暮れ

・なつかしく 手にはとらねど 山がつの 垣根のむばら 花咲きにけり

・夏の日の 菅の根よりも 長きをぞ 衣ぬぎかへ 暮しわびぬる

・露ばかり 袖だにぬれず 神無月 紅葉は雨と 降りに降れども

・草枯れの 冬まで置けと 露霜の 置きてのこせる 白菊の花

・野飼せし 小笹が原も 枯れにけり いまは我が駒 草につけてん

・さかた川 淵は瀬にこそ なりにけれ 水の流は 早くながらに

・ゆふだすき 花に心を かけたれば 春の柳の いとまなみこそ

・白露の こぼらば玉と 手にとりて 貫かぬまでにも 置きて見ましを

・飛ぶ鳥の 心は空に あくがれて 行方も知らぬ ものをこそ思へ

・類よりも ひとり離れて 飛ぶ雁の 友におくるる 我身かなしな

・今日かとも 知らぬ憂き世を 嘆くまに わが黒髪ぞ 白くなりゆく



[藤原高光 ふじわらのたかみつ ※高光集などから]

・桜花 のどけき春の 雨にこそ 深き匂いも あらわれにけれ

・ひねもすに ふる春雨や 古へを 恋ふる袂の 雫なるらむ

・神無月 風に紅葉の 散る時は そこはかとなく ものぞ悲しき

・秋風に 乱れてものは 思へども 萩の下葉の 色はかはらず

・秋風の 初めてむすぶ 白露と 言いおくほどに ゆゆしかりけり

・世間に 降るぞはかなき 沫雪の 且つは消えぬる ものとしるしる

・立つ岸の うはの空なる 心にも 逃れがたきは この世なりけり

・万代の 松に懸かれる 秋の月 久しき影を みよとなるべし

・世間は かくこそ見ゆれ つくづくと 思へば假の 宿りなりけり


[藤原元真 ふじわらのもとざね ※三十六歌仙]

・あらたまの 年をおくりて ふる雪に 春ともみえて けふの暮れぬる

・わが宿の 八重山吹は 散りぬめり 花のさかりを ひとの見に来ぬ

・まつひとは あまたあれども 立ち止まり 山ほととぎす ふたこゑも鳴け

・ひととせを 一夜に込めて 七夕の 逢ふは今宵の 月日ならぬか

・初雁を 送るなりけり 秋風の 雲居はるかに 鳴きて過ぐるは

・白露の 置ける草葉に 浮かばすは 今宵の月は ひるとこそみめ

・大空に はるとも見えて 散る花の 雲の上にて 訪ねてしかな

・いたづらに 過ぐる月日は 多かれど 今日霜積もる 年をこそ思え

・春ふかみ 咲きて匂える 藤の花 まつぞ千歳の やどりなりける

・山高み 落ち来る滝の 白糸は 空にみたるる 玉かとぞみる

・水底に 沈める千世の 影をみて 池の葦田鶴 のどけかりけり

・音にきく 安積の沼の 朝ぼらけ たえぬ煙は 名のみなりけり

・我が宿の 桜は風に 散り果てぬ 明日こむ人や くやしと思わむ

・知る人も なき山里の 梅の花 にほふ日よりぞ 来てもたづぬる

・あやめ草 あやなくもみて 逢うことを いつかと待ちし 今日は暮しつ

・寝覚めにて 夜は明けぬとも 霍公鳥 言語らわむ 一声もせず

・あやしさに 寝覚めてきけば 霍公鳥 など古里に 声もきこえぬ

・うつろわむ ほどだにもみむ 女郎花 心のどかに 露は置かなむ

・神無月 時雨る空の もみぢ葉は 秋をたむくる ぬさと散りけり

・霧立ちて 別れし日より 時雨つつ 過ぎにし秋ぞ 悲しかりける

・あききりの 立たぬ先より 佐保山の 紅葉の錦 残らざりけり

・散り果てて 木葉も空に 残らぬを 神無月かみなづきとは 言うにぞありける

・山賤の 垣根を瀬はみ 追い染めし 色とはみゆや 撫子の花

・月影に ほのかにみゆる 花薄 風のたよりに 結びつるかな

・秋暮れて まねく袂を 花薄 今は露さへ 結ぶべきかな

・女郎花 野辺の古里 思ひ出でて 宿れる虫の 声や恋ひしき

・露結ぶ 秋果て方の きりぎりす 草のねごとに さむくこそなけ

・秋風の 萩の下葉を 吹き乱れ 空に満ちぬる ひぐらしの声

・松虫の 絶えず鳴くなる 女郎花 千歳の秋は たのもしきかな

・竜田山 深き紅葉も 君見ずば 夜の錦と なおぞくれまし

・吉野山 霞立ちぬる 今日よりや 朝の原に 若菜摘むらむ

・春霞 立ちや込めつる 小倉山 ほとりのかいに ゆきもみえぬは

・今朝よりは 霞山路に 立ち上る 三輪の古里 ほのかにもみる

・冬ながら 今日は仮にや 春霞 たなびく空の ことに見ゆらむ

・春はなお 惜しみつつ鳴く 鶯の 声に雲居も 匂うべらなり

・あさみどり 乱れて靡く 青柳の 色にぞ春の 風は見えける

・さきさかす つけよ吉野の 山櫻 かすみ晴れなば よそにてもみむ

・世とともに 散らすもあらな 桜花 あかぬ心は いつかたゆべき



【 中世期 新古今和歌集 】


【 中世期・個人 】


[周防内侍 すおうのないし ※女房三十六歌仙]

・つねよりも 三笠の山の 月影の ひかりさしそふ あめのしたかな

・なにか思ふ 春のあらしに 雲晴れて さやけき影は 君のみぞ見む

・のどかなる くもゐは花も ちらずして はるのとまりと なりにけるかな

・山櫻 惜しむ心の いくたびか 散る木のもとに ゆきかかるらむ

・夜をかさね 待ちかね山の ほととぎす 雲居のよそに 一声ぞ聞く

・むかしにも あらぬ我が身に ほととぎす 待つ心こそ 変わらざりけれ

・五月雨に あらぬけふさへ 晴れせねば 空も悲しき 事やしるらむ

・天の河 おなじながれと ききながら わたらむことの なほぞ悲しき

・恋ひわびて ながむる空の 浮雲や 我が下もえの 煙なるらむ

・住みわびて 我さへ軒の 忍草 しのぶかたがた 茂き宿かな

・世に経れば 君にひかれて 在り難き 一身のあめに 千度濡れぬる

・いひやらむ 言の葉だにぞ なかりける 霜涸れ果てし ころの別れは

・ゆきて見ぬ こころのほどを 思ひやれ みやこの内の 越の白山

・あさからぬ 心ぞ見ゆる 音羽川 せき入れし水の 流れならねど

・かくしつつ 夕べの雲と なりもせば あはれかけても 誰かしのばむ


[式子内親王 しょくし/のりこないしんのう ※女房三十六歌仙]

・春もまづ 著く見ゆるは 音羽山 峰の雪より 出づる日のいろ

・うぐひすは まだこゑせねど 石そそぐ 垂水の音に 春ぞきこゆる

・色つぼむ 梅の木の間の 夕月夜 春の光を みせそむるかな

・春くれば 心も溶けて 淡雪の あはれ降りゆく 身を知らぬかな

・消えやらぬ 雪にはつるる 梅が枝の 初花染の おくぞゆかしき

・たが里の 梅のあたりに 触れつらむ 移り香著き 人の袖かな

・花はいざ そこはかとなく 見渡せば かすみぞ馨る 春の曙

・花ならで また慰むる 方もがな つれなく散るを つれなくぞ見む

・はかなくて 過ぎにし方を 数ふれば 花にもの思ふ 春ぞ経にける

・誰も見よ 吉野の山の 峰つづき 雲ぞ桜よ 花ぞしらゆき

・花咲きし 尾上は知らず 春霞 千草の色の 消ゆるころかな

・春風や 真屋の軒端を 過ぎぬらむ 降り積む雪の かをる手枕

・残りゆく 有明の月の 盛る影に ほのぼの落つる 葉隠れの花

・鶯も もの憂き春は 呉竹の よかれにけりな 屋戸もさびしき

・ふるさとへ 今はとむかふ 雁がねも 別るる雲の あけぼののいろ

・けふのみと 霞のいろも 立ち別れ 春は入日の 山の端の月

・雨過ぐる 花橘に 時鳥 訪れずして 濡れぬ袖かな

・眺むれば 月はたえゆく 庭のおもに わずかに残る 蛍ばかりに

・夏の夜は やがて傾く 三日月の みるほどもなく 明くる山の端

・みじか夜の まどの呉竹 うち靡き ほのかにかよふ うたたねの秋

・照らす日は さやかに夏の 空ながら 時を過ぎたる 松の山景

・夏暮れて けふこそ秋は 立田山 風の音より 色かはるらむ

・眺むれば 衣で涼し 久方の 天の河原の 秋の夕暮れ

・吹きむすぶ 露も涙も ひとつにて おさえ難きは 秋の夕暮れ

・秋はただ 夕の雲の 景色こそ そのこととなく 眺められけれ

・唐衣 裾のの露に 立つ霧の 絶え間絶え間は 錦なりけり

・夕霧も 心の底に 咽びつつ 我が身ひとつの 秋ぞふけゆく

・月の住む 草の庵を 露漏れば 軒にあらそふ まつ虫のこゑ

・おしこめて 秋のあはれに 沈むかな ふもとの里の 夕霧のそこ

・秋の夜の 雲なき月を 曇らせて ふけゆくままに 濡るる顔なる

・さほ山の ははその紅葉 色に出でて 秋深しとや 霧にもるらむ

・神無月 嵐は軒を 払いつつ 閨まで敷くは 木葉なりけり

・真木の屋に 時雨は過ぎて ゆくものを 降りも止まぬや 木葉なるらむ

・冬くれば 谷の小川の 音絶えて 峰のあらしぞ 窓を訪ひける

・鳰の たちゐにはらふ つばさにも 落ちぬ霜をば 月としらずや

・いろいろの 花ももみぢも さもあらばあれ 冬の夜ふかき 松風の音

・思ふより なほ深くこそ 寂しけれ 雪降るままの 小野の山里

・住みなれて たれふりぬらむ 埋もるる 柴の垣根の 雪の廬に

・ほのかにも あはれはかけよ 思ひ草 下葉に紛う 露も漏らさじ


[藤原定家 ふじわらのていか/さだいえ ※小倉百人一首選者]

・出づる日の 同じひかりに 四方の海の 浪にもけふや 春は立つらむ

・鶯の 初音をまつに さそはれて はるけき野辺に 千世も経ぬべし

・大空は 梅のひほひに 霞みつつ くもりもはてぬ 春の夜の月

・梅の花 にほひをうつす 袖の上に 軒もる月の 影ぞあらそふ

・風馨る 越の山地の 梅の花 いろに見するは 谷の下水

・梅の花 下ゆく水の 影みれば にほひは袖に まづ移りけり

・春雨の 晴れゆく空に 風吹けば 雲とともにも 帰る雁がね

・春雨の しくしく降れば いなむしろ 庭にみたるる 青柳のいと

・朝なきに ゆきかふ船の 景色まで 春を浮かぶる 波の上かな

・をちこちの よもの梢は 桜にて 春風かおる み吉野の山

・青柳の 葛城山の 花盛り 雲ににしきを たちぞ重ぬる

・花ゆゑに 春は憂き世ぞ 惜しまるる おなじ山地に ふみ迷えども

・桜花 またたちならぶ 物ぞなき 誰まがへけん 峰の白雲

・吉野山 高き桜の 咲き初めて 色立ちまさる 峰の白雲

・梓弓 春は山地も ほどぞなき 花のにほひを 尋ねいるとて

・なかなかに 惜しみ求めし 我ならで 見る人もなき 屋戸の桜は

・春の野に はなるる駒は 雪とのみ ちりかふ花に 人やまどへる

・みなかみに 花やちるらむ 吉野山 にほひをそふる 滝の白糸

・おしなべて 峰のさくらや ちりぬらむ 白妙になる 四方の山かぜ

・あらし夜は 咲くより散らす 桜花 すぐるつらさは 引かずなりけり

・名もしるし 峰のあらしも 雪とふる 山さくら戸の あけぼのの空

・風ならで 心とをちれ 桜花 うきふしにたに 思ひおくべく

・いまもこれ すぎても春の 面影は はなみるみちの はなのいろいろ

・石走る 瀧こそけふも いとはるれ 散りてもしばし 花は見ましを

・卯の花に よるのひかりを 照らさせて 月にかはらぬ 玉川の里

・橘の 花ちる風に あらねども 吹くには香る あやめぐさかな

・すぎぬるを 恨みは果てじ ほととぎす なきゆくかたに ひともまつらん

・五月雨に けふもくれぬる 明日香川 いとど渕瀬や かはりはつらん 

・五月雨の 雲の彼方を ゆく月の あはれ残せと かをる橘

・おもだかや 下葉にまじる かきつばた 花踏み分けて あさる白鷺

・夏ぞしる 山ゐの清水 訪ねきて 同じ木蔭に 結ぶ契りは

・ゆきなやむ 牛の歩みに たつ塵の 風さへあつき 夏の小車

・なほしばし さてやはあけむ 夏の夜の 石越す浪に 月はやどりて

・大井川 越智の梢の 青葉より 心に見ゆる 秋のいろいろ

・夕まぐれ 秋の景色に なるままに 袖より露は 置きけるものを

・おしなべて かはる色をば おきながら 秋を知らする 萩のうはかぜ

・秋とだに 吹きあへぬ風に 色かはる 生田の森の 露の下草

・風ふけば 枝もとををに おく霧の 散るさへ惜しき 秋萩の花

・をみなへし 露ぞこぼるる おきふしに 契りをそめてし 風や色なる

・白妙の 袖の別れに 露落ちて 身にしむ色の 秋風ぞ吹く

・しぐれつつ 袖だにほさぬ 秋の日に さこそ御室の 山はそむらめ

・都にも いまや衣を うつの山 夕霜はらふ 蔦の下道

・露ふかき 萩の下葉に 月さえて をじか鳴くなり 秋の山里

・見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の 秋の夕暮れ

・秋といへば 人の心に やどりきて まつにたがわぬ 月の影かな

・天の原 おもへばはるか 色もなし 秋こそ月の 光なりけれ

・月かげを 葎のかどに さしそへて 秋こそ来たれ とふ人はなし

・さむしろや 待つ夜の秋の 風ふけて 月をかたしく 宇治の橋姫

・秋の夜の かがみと見ゆる 月かげは 昔の空を うつすなりけり

・浮雲の はるればくもる 涙かな 月見るままの ものがなしさに

・眺めしと 思ひしものを 浅茅生に 風吹く屋戸の 秋の夜の月

・秋の夜は 雲路をわくる 雁がねの あとかたもなく ものぞ悲しき

・いづるより 照る月影の 清見潟 空さへこほる 波の上かな

・紅葉せぬ ときはの山に 宿もがな 忘れて秋を よそにくらさむ

・消えわびぬ うつろふ人の 秋の色に 身をこがらしの 森の下露

・たまゆらの 露も涙も とどまらず 亡き人こふる 宿の秋風

・駒とめて 袖打ち払う かげもなし 佐野の渡りの 雪の夕暮れ

・年も経ぬ 祈る契りは はつせ山 をのへの鐘の よその夕暮れ

・あぢきなく つらきあらしの 声もうし など夕暮れに 待ちならひけん

・忘れぬや さは忘れける わが心 夢になせとぞ 言ひて別れし

・須磨の海人の 袖に吹きこす 潮風の なるとはすれど 手にもたまらず

・なびかじな 海人の藻塩火 たきそめて 煙は空に くゆりわぶとも

・ひさかたの 中なる川の 鵜飼ひ船 いかに契りて 闇をまつらん

・ひとり寝る 山鳥の尾の しだり尾に 霜おきまよふ 床の月影

・鐘の音を 松にふきしく おひ風に 爪木や重き かへる山人

・来ぬ人を まつほの裏の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ

・いかにせむ 袖のしがらみ かけそむる 心のうちを 知る人ぞなき

・もろこしの 吉野の山の ゆめにだに まだ見ぬ恋ひに 惑ひぬるかな

・夢のうちに それとて見えし 面影を この世にいかで 思ひあはせむ

・小夜衣 わかるる袖に とどめおきて 心ぞはては うらやまれぬる

・つらきさへ 君がためにぞ 嘆かるる むくいにかかる 恋もこそすれ

・もろともに ゐなのささはら 道たへて ただ吹く風の 音にきけとや

・思ひ出でよ 末の松山 すゑまでも 波越さじとは 契らざりきや

・恋ひ渡る さのの船橋 かげ絶えて 人やりならぬ ねをのみぞなく

・いかにせむ うきにつけても 辛きにも 思ひやむべき 心地こそせね

・ながめても さだめなき世の 悲しきは 時雨にくもる 有明のそら

・水の上に 思ひなすこそ はかなけれ やがて消ゆるを あはと見ながら

・垂乳根の およばず遠き あと過ぎて 道をきはむる 和歌の浦人


[源実朝 みなもとのさねとも ※金槐和歌集から]

・けさみれば やまも霞みて 久方の 天の原より 春は来にけり

・ここのへの 雲居に春ぞ 立ちぬらし 大内山に 霞たなびく

・朝霞 立てるをみれば みつのえの 吉野の宮に 春は来にけり

・春立たば 若菜摘まむと しめおきし 野辺とも見えず 雪の降れれば

・松の葉の 白きをみれば 春日山 木も芽も春の ゆきぞふりける

・若菜摘む 衣手濡れて 片岡の 朝の原は 淡雪ぞふる

・春来れば まづ咲く宿の 梅の花 香を懐かしみ 鶯ぞなく

・早蕨の 萌え出づる春に なりぬれば 野辺の霞も たなびきにけり

・み冬尽き 春し来ぬれば 青柳の 葛城山に かすみたなびく

・春来れば なお色まさる 山城の 常盤の杜の 青柳のいと

・あさみどり 染めてかけたる 青柳の いとに玉貫く 春雨ぞふる

・春雨の 露もまたひぬ 梅が枝に うわ毛しおれて 鶯ぞ鳴く


[吉田兼好/兼好法師 よしだけんこう/けんこうほうし ※南北朝二条派四天王 徒然草作者]

・行き暮るる 雲路の末に 宿なくば 都に帰れ 春の雁がね

・見ぬ人に 咲きぬと告げむ ほどだにも 立ち去りがたき 花のかげかな

・先にほふ 藤の裏葉の うらとけて 影ものどけき 春の池水

・五月きて 花橘の 散るなへに やま霍公鳥 鳴かぬ日はな

・最上川 はやくぞまさる 雨雲の のぼればくだる 五月雨のころ

・めぐりあふ 秋こそいとど 悲しけれ あるを見し世は 遠ざかりつつ

・待てしばし めぐるはやすき 小車の かかる光の 秋にあふまで

・大原や いづれおぼろの 清水とも 知られず秋は 澄める月かな

・引くことを あはれと知らば 無き世まで 形見に慕へ 松の秋風

・松風を 絶えぬ形見と 聞くからに 昔のことの 音こそなかるれ

・月にうき 身をあききりの 隔てにも さわらで通ふ 心をとしれ

・もろともに 眺めぞせまし あききりの 隔つる夜はの 月はうらめし

・問われぬる 露のいのちは 連れなくて もろきは袖の 涙なりけり

・衣うつ 夜寒の袖や しほるらん あか月露の 深草の里

・思ひいづや 軒のしのぶに 霜冴えて 松の葉わけの 月を見し夜は

・夜も涼し 寝覚めの仮盧 手枕も 真袖も秋に 隔てなき風 ※頓阿への沓冠歌
 (米 た ま へ。銭 も ほ し )

・空にのみ さそふ嵐に 黄葉の ふりも隠さぬ 山の下道 

・春近き 鐘の響きの冴ゆるかな 今宵ばかりと 霜や置くらん

・千歳とも 何か待つべき 五十鈴川 濁らぬ世には いつも澄みけり

・うきもまた 契りかわらで ふるにいま 袂ぬれつつ 露やくだくる

・はかなくて ふるにつけても あは雪の 消えにし跡を さぞ偲ぶらむ

・柴の戸に ひとりすむよの 月の影 とふ人もなく さす人もなし

・朝まだき 曇れる空を 光にて さやけく見ゆる 花の色かな

・思ひたつ 木曽のあさぬの あさくのみ そめてやむべき 袖の色かは

・覚めぬれど 語る友なき 暁の 夢の涙に 袖はぬれつつ


[頓阿 とんあ ※南北朝二条派四天王 井蛙抄作者 兼好法師と仲良し]

・あらたまの 春立つ今日の 朝日影 匂へる山は 霞み初めつつ

・玉島や いく瀬の淀に 霞むらん 川上遠し 春の曙

・鶯の 声よりほかは 誘はるる 人こそなけれ 軒の梅が香

・見るままに さざ波高く なりにけり 花咲きぬらし 沖つ嶋山

・立ちならぶ 花の盛りや 谷かげに 古りぬる松も 人に知られん

・初瀬山 桜に白む 尾上より おくれて明くる 鐘の音かな

・山里は 訪はれし庭も 跡たえて 散り敷く花に 春風ぞ吹く

・世の中は かくこそありけれ 花盛り 山風吹きて 春雨ぞ降る

・咲にけり 八十宇治川の 波間より 見ゆる小島の 山吹の色

・さらでだに 月かとまがふ 卯の花を 露もて磨く 玉川の里

・いづくにか 今宵鳴くらん 郭公 月も里分く 叢雲の空

・濡れつつや 宗我の河原の 五月雨に 水のみかさの 真菅刈るらん

・宮城野の 木の下闇に 飛ぶ蛍 露にまさりて 影ぞみだるる

・鳴く蝉の 声も一つに 響ききて 松蔭涼し 山の滝つ瀬

・いつかより 天の川瀬に 渡しけん 年に一夜の 夢の浮橋

・草も木も 露けき秋の ならひとや 心なき身に 袖の濡るらん

・霧深き 峰飛び越えて 麓なる 稲葉の雲に 雁は来にけり

・昔だに 憂き世のほかと 見し月の 影を深山に なるる秋かな

・ふくる夜の 川音ながら 山城の 美豆野の里に 澄める月影

・月宿る 沢田の面に 伏す鴫の 氷より立つ 明け方の空

・秋の夜は 誰待ち恋ひて 大伴の 御津の泊まりに 衣打つらん

・宇津の山 越えしや夢に なりはてん 垣穂の蔦の 色に出でずは

・冬の夜の 閨の板間は 明けやらで いくたびとなく 降る時雨かな

・夕暮れは 憂かりし秋の 風の音を 枯れ葉に残す 庭の萩原

・さゆる夜の 月の宿かる夏実川 氷もはてず 山陰にして

・和歌の浦に 跡をとめずは 浜千鳥 何につけてか 名を残さまし

・霜氷る 朝けの窓の 竹の葉に 霰くだくる 音の寒けさ

・今朝はまだ 人の行き来の 跡もなし 夜の間の霜の 真間の継橋

・野も山も 定かに見えて むばたまの 闇のうつつに 降れる白雪

・はし鷹の 初狩衣 露分けて 馴らはぬ恋ひに 濡るる袖かな

・よそながら 馴るるにつけて なかなかに 思ふ心を 漏らしかねつつ

・名にし負はば ただ一言を 言ふまでの しるべともなれ 葛城の神

・待ちわびて 今宵も明けぬ 鳥の音の 憂きを別れと なに思ひけん

・おのづから 枕ばかりを かはしまの 水の心は なほぞ知られぬ

・憂かりける 人の契りの 浅芽原 なびくと見れば 秋風ぞ吹く

・朽ち残る 蘆間の小舟 いつまでか 障るに託つ 契りなりけん

・風越や 谷に夕ゐる 白雲の 中にぞ落つる 木曽の山川

・武蔵野を 分け越し駒の 幾日経て 今日紫の 庭に出づらん

・かはらじな 空しき空の 夕月夜 また有明に 移りゆくとも

・夜も憂し ねたく我が背子 はては来ず なほざりにだに しばし訪いませ ※兼好への返歌
 (米 は な し 。銭 す こ し )


【 戦国期・公家】


[三條西実枝/三光院 さんじょうにしさねき/さんこういん ※実世・実澄と同一人物]

・音たてて 打出る浪や 山河の 氷をたたく はるの初風

・打いづる 水の煙も たちそひて 垂氷したたる 花の早蕨

・秋の夜の 千里をかけて みし月も 霞にこもる 春の明仄

・朝まだき 野辺は霞の ひま見えて 緑色濃き 草の村々

・梓弓 はるの円ゐを 雲の上の けふのともねの 響きにぞきく

・匂へなを 花といふ名は 吉野山 さくら一木の 色か成らん

・音なきは ふるとも見えず 苔の上に ちりも動かぬ 春雨の空

・萌え出でし 程もしられて 下草に 駒懐くべく 祝う春風

・花にさき 枝もさしそへ 春日なる 三笠の陰の 北の藤浪

・打なびき 民の草葉の さみだれに あまねき天の 恵みをぞみる

・いひしらぬ 花橘よ 草も木も その葉までやは かに匂ひける

・賤か屋の あたりをちかみ たく蚊火の いとふにはゆる 夕煙かな

・夜をこめて はこぶ氷は ひ室山 よものみ月に をくれしもせし

・むすぶ手は 岩間盛りきて いさぎよき 玉の声すむ 水の涼しさ

・しめたつる いばらの中の 女郎花 秋の野分の 風もよかなむ

・色にしも あらぬ言葉の 花薄 穂に出ていつか 人に知られむ

・滝の糸の くり出してや 長き日を 吉野の山の 花にくらさむ

・散らしける 花吹たつる 春風に 浪をぞかくる 志賀の山越

・けふといへば 物いはぬ花も 三日月の 光に千世の 色やそふらん

・名にしおふ 井出の蛙の 鳴く声は 春も夕の 哀そひけり

・けふそ思ふ 花ものこらぬ 木の本を しゐても春の 形見成とは

・いまよりの 故郷いかに 夏ふかく しげる草葉に 道は絶けり

・まどろまで 幾夜なれけん みじか夜の 月に言問ふ 山郭公

・空はまた 跡さり晴て 山かぜの 越行く末や 夕立ちの雨

・かねてより 秋やかなしき 空蝉の 木葉の露の 朝夕になく

・秋やこし 袖にはしらぬ 風の音を 四方の草木の 上に問はばや

・雲の上に 手向る琴の しらべにも 引やはとむる 星合の空

・しめをきし 花の千種も 時のまの 野分になして 身を砕くなり

・山田もる 賤かこころや いかならん 稲葉をすぐる さお鹿の声

・わかの浦や あしべの鶴も をく霜に 秋長しとや 鳴きあかすらん

・虫の音も 霜かれはてて 秋草の 花の跡なき 野辺の寂しさ

・かきくもり 幾夜みぞれの 音さえて 雪消にのこる よもの浮雲

・明わたる 雲ゐはるかに 行く月の 影きえ残る 庭のしら菊

・夕まぐれ さゆる嵐の 音そふは 波やこゆらん 末の松山

・山里は 訪ふ人もなし しゐ柴の しばしと頼む この世ながらに



【 戦国期・武将 】


[大内義隆 おおうちよしたか]

・春の色は 今ぞみかさの 山高み かけてかすめる 嶺の松原

・きらきらと 月の光を 紅の 花にうつせる なでしこの露

・紅に しぐれしぐれて 染めつくす 色もちしほの 岡の梢を

・独ならぬ 秋の憂きも 月ならで 昔のそらの 友とやは見む

・さして入る 寝屋の板間の 月の影 それも涙の たねにそ有りける

・さだめなき 習いを見せて 一とをり しぐるる山の 雲の遠かた

・冬枯れの かり場の小野に たつ鳥の いかに偲ばん 人目をやおもふ

・いつの間に 今年も暮れぬ なにをして 身のいたづらに 日を送りけん

・蕨おる ならひもよしや 山ふかみ 憂きに稀なる すみかなりせば

・わたの原 雲うく浪に かたしきて 月をむすぶ かち枕かな

・月花の 都にのみと 眺めやりて おなじく後の 空をしぞおもふ

・うつしうえて けふぞかひある 諸人の 心の花の いろふかみくさ

・いまさらに こうも厭はし 小笹原 しのにものおもふ 露の冬暮れ

・さかならぬ 君か浮き名を とどめおきて 世にうらめしき 春の浦風