2022年12月25日日曜日

『全部ぶっ壊す』最終回。


 本当に終わってしまった。
 最終回としては、正直、今までの破壊ネタが秀逸だっただけに、『最後の話』としては、ちょっとインパクトが足りなかったかもという感じも、あるにはある。
 それでも、破壊神と英雄の(主に破壊神側の)成長物語としては大変満足だし、そもそも一話の英雄の「一人じゃないさ」の意味をきっちり回収したということで、やることはすべてやりきった。
 オチにしても、それまでちゃんとSFや科学ネタを積み重ねて来ているので、しっかりと予定されていた流れであるということがわかるので、漫画の内容的な弱さはあるとしても、着地点としての不足は感じない。
 破壊神も英雄も、お互いに悲しみと孤独を抱えた存在だったが、転生し、そのお互いが家族になったことにより、お互いをお互いたらしめていた要素をすでに破壊されていたというのは、返されないどんでん返しというか、物語の要素が調和する瞬間として非常に心地よいものがあった。
 ユウカは番外編の一幕で《破壊破壊》を行ったことですでに心の深層で、これに気づいているはずで、カイセイの方は青倉君との対話で、それに気が付いた。ヤドカリの存在であればこそ、貸主に返さなきゃならんとも思えるものの、それでも、一人ではないことで、破壊神ではなくなった今がある。その顛末が、その行く先が、この最終回にたどり着くのであれば、それはそれでいいと、個人的には納得できる。

 おそらく終わりが決まったのは、組事務所襲撃のあたりかなってところは、想像に難くない。バトル漫画へのテコ入れというか、バトル漫画としての可能性を観ていた感じはあったよね。
 ただこの漫画の魅力は、読者の日常と重なった二人の主人公が『日常的な感覚の破壊』だったので、そもそも超常能力バトル展開とは相性が悪いというのも、興味深いところだった。今まで出てきた破壊で、だいたいの敵はワンパンで終わるので、バトルにならないし、望まない結果はすべてページ破壊すればいいというのが、まさにバトル漫画展開を破壊していて、打ち切り回避ムーブへの強烈なアンチテーゼとなってて面白かった。
 そしてこの前後の話を含めると、最初から連載一年が想定内とか、ネタ切れで終わりにしたというのも、なかなか考えづらい。リサどんの父親エピなどは、破壊ネタが切れたとしても、いままで成り立たせたものだけで、以後十分にドラマを構成できる実力が原作者にあることはわかるのだ。
 もったいないことではあるが、人気がそれほど高まらなかったことが、終了の一因であることは否めないのだと思う。
 
 秀逸だった部分に関しては、世界観の設定と、それを生かしたストーリー作り方も挙げておきたい。
 この漫画は、破壊神と英雄が戦った世界からの延長の『現代』であり、『読者側の現実』とはかけ離れた世界として設定されている。
 だからユウカが種々様々な発想によって、世界の常識を破壊してしまっても、登場キャラクターを含め、『漫画の中の現代社会』では、大騒ぎにはなるが、パニックや機能不全をおこさない。それらによって、このぶっ壊されている日常は、私たちの世界とはどこか違うのだと、読者側に少しずつ意識させていく。
 そのうえで、漫画であることを生かした破壊をしたり、ヤクザが「日本古来より伝わるバスターソード」で戦ったりするなどという、大きかったり小さかったりするネタを挟むことによって、それらを生かす展開につなげていくのも、非常に巧かった。
 ユウカが(カイセイも)、そもそも自分たちが漫画の世界の住人であるということを自覚しているというのもよかった。なのに、漫画の流れ自体では、それを感じさせない作りになっていて、自然に読むことができる。これはひとえに、原作のへじていと先生の巧さが光る部分だったように思う。
 作画の山岸菜先生も、体操漫画の清涼剤だった『ムーンランド』を描いた実力派なのに、こういう砕けた内容にも対応できるのは、さすがでしたとしか言いようがない。

 実は、普通にこの漫画はまだまだ続くものだと油断していたから、先々週あたりに急に締めに入ったことには非常に驚いて、それがまだ全然おさまってない。
 最終回の内容は、どの時点でも挟める内容だから、多分、終了に備えていたということもあるんだろうけどまぁ、私を含めても、終了には納得のいかない人も、結構多いだろうなぁ。
 続いてほしかったし、続くべき作品であることは間違いないものの、世の名作は終わり方に苦しむことも多いので、短く綺麗にまとめた良作であることにも価値がある。そう思って、納得するべきなのかもしれない。
 グロテスクなものもなく、悲劇(の話ではあるのだが)も鬱鬱としたものもない、明るく穏やかに楽しめる漫画が、また一つ減ってしまう口惜しさはあるものの、物語を最後まで、さわやかに締めくくることのできた『全部ぶっ壊す』が、面白い漫画だったことだけは間違いない。

 へじていと先生と、山岸菜先生が、次にどのような作品を送り出してくれるのか、両先生の次回作を、大いに期待します。