2022年10月23日日曜日

カップリングについては、ニブとカイセイでいい派


 ヒロポン回。
 魔王やってた割に、疲労破壊とかを使ってなかったのかと不思議になる。
 でもランナーズハイの話だし、また別か? そうでもないか?

 そして、ランナーズハイ描写はよかったのに、その脳内作用には詳しく言及しなかった回でもあるということで、勝手にランナーズハイの補足をしておこうと思う。

 ランナーズハイというのは作中でも言われている通り、運動しているとなんかご機嫌になってくる(ハイになる)現象のこと。ただ、ご機嫌になってはいるのだが、一方では、運動中には出にくいα波が出たりして脳内が安定する作用も見えるので、「単純にハイになっている」とはいいがたい複雑な脳内作用。
 一般的には、脳内物質の過剰放出によって引き起こされるとされているけど、実は、その原因物質も発生機序も、「わかりました」まではあと一歩といったところ。

 実験によって、運動中にβエンドルフィンというホルモンの放出増大が検出されて、結構ながいあいだ、この物質がランナーズハイの原因とされているけど、βエンドルフィンの作用とランナーズハイ中の人が感じていることに齟齬があり、「βエンドルフィンっぽい」とわかりはじめた時点から、40年間その「ぽい」を抜け出せていない。

 βエンドルフィンというのは主に痛覚に作用するホルモン。
 脳内から生み出されたβエンドルフィンがドーパミン(快感のコントロール物質)の生成を助け、そのドーパミンがアドレナリン(快感のコントロール物質)の生成に作用するため、運動しているとなんか高ぶってくることのまさに原因物質と言える。

 βエンドルフィン(鎮痛作用)→ドーパミン(快感)→アドレナリン(快感)という順序で脳内物質が生み出され、それがハイになっていると習慣的には考えられている。
 βエンドルフィンが放出されることによって運動の苦しみが緩和され、さらにドーパミンやアドレナリンの生成が促されることによって、「走っているとなんか気持ちいい!」という気分になることが、つまりランナーズハイというわけ。

 そしてこれは全部、報酬系と呼ばれるホルモンで、一度味わうと、またその状態になることを求めてしまう。これは、人間が行動を起こすために必要な欲求行動を司る作用で、気持ちよかったこと、おいしかったものを、もう一度求めてしまう心理のもとになっている。
 簡単に言えば、『こないだ食った唐揚げが美味かったので、もう一度食いたい』というようなこと。
 この報酬系というのは、生物が生きていくために必要なホルモンの作用で、人間では特にそれが快体験(セックスとか)に結びついていて、産めよ増やせよに繋がっているわけである。
 運動している人が運動に病みつきになる作用とも言えて、さらにいえば、運動選手に普通の人と比べて旺盛な性欲があること、さらに進んでセックス中毒になる人が多いのもこれが原因にある。ドーパミンやアドレナリンの放出は、それが常態化してしまうと、疑似的な脳内麻薬中毒として表れる。それを求める欲求は通常ならば運動で解消することになるのだが、運動選手の多くは、運動それ自体がもつ苦しさや厳しさなども知っているので、セックスにその代替を求めてしまう人も少なからずいるのだ。つらく苦しい運動をするよりも、より簡単で気持ちのいいセックスという快楽行為を選択してしまうというわけだが、でもまぁそれは人間の持つ性でもあるのでしょうがない。
 歴史的に見ても、『英雄色を好む』という言葉が示す通り、肉体的、運動能力的に優れた人物が、紊乱な性生活に溺れるというのは、まゝあることで、よくわかっていなくても、まさに歴史が証明している脳内作用機序という感じ。
 
 セックスまでいかなくても、恋愛そのものも快体験には含まれる。
 走ってる途中に、ニブが意を決してカイセイに「頑張ってっす」と声をかけるのも、その後にニブちゃんとカイセイがいい感じになっているのも、当然、ドーパミンとアドレナリンの放出によるハイ状態だったから。
 気分を高揚させるドーパミンはもとより、ランナーズハイの結果生まれているアドレナリンという脳内物質が、ニブの勇気の元になっている。
 アドレナリンの機能には『闘争逃走作用』という機能がある。これは、物事の土壇場で、それに対して立ち向かうか、もしくは逃げるかを『選択・判断すること』に影響する。簡単に言えば、生物に思考停止する選択肢(出来事に対してリアクションしないという選択)を失わせる作用だ。
 野生では、当然ながら自分よりも上位の捕食者による捕食の危機がある。それに直面したときに、強者に立ち向かい戦って生き延びるか、それとも逃げることによって生き延びるかという選択を迫られることがあるだろう。この命の危機に直面したときに、数瞬の間でも思考停止しまうということは、想像するまでもなく最悪の一手であり、これを回避するために『行動を起こす』ことは、自らの命を存えさせるための重要な生存行動だった。
 このアドレナリンは、その『行動』自体を誘発するホルモンと言える。
 ニブの場合は、いつもよりアドレナリンが多く出ていたことでそれが脳内麻薬として作用し、ニブは勇気を出してカイセイに声をかけるという『行動』として表れた。
 さらにこのニブの意を決したカイセイに対する応援は、文句なしのベストタイミングだったとも言える。
 なぜならこのタイミングは、当然カイセイの脳内でもβエンドルフィンが出ているドーパミンドバドバ状態であり、これとニブへの印象が紐づけ(条件付け)されたということは、つまり「気持ちがいい時」と「ニブという存在」が紐づけされたわけで、カイセイ側の恋愛感情の醸成についても多大な影響を与えたに違いないのだ。
 結果として、ニブは恋愛の土壇場で、状況に立ち向かうことによって、まさに最良の結果を得ることに成功したわけだ。

 この辺が上手いのはニブが頑張った描写であると同時に、それが次のできごとへの簡単な伏線になっているというところ。
 ニブが立ち向かう行動を選択し、走るのも自分の気持ちを表すのも頑張った一方、ユウカは疲労破壊によって苦痛からの逃走を選択する。
 そう。アドレナリンの放出によって『闘争逃走作用』が働いたユウカは、ニブとは対照的に、疲労から『逃走する』ことを決断する。
 その結果として、脳内アッパー系麻薬のオーバードーズに晒されて、文字通りぶっ飛んでしまうんだけど。
 まぁこれまでと同様なら、来週になれば何ごともなくやっていくんだろうけど、脳内麻薬ジャンキーになるとか元人格のユウカに申し訳ないと思わんのか。

 走ることによる苦痛から、疲労破壊という手段で逃走したユウカとは違い、ニブは逃げずに頑張ったからカイセイとの仲を進めることができたということでもあるので、ズルをしなければそれだけいいことがあるよ、というメッセージにもなっているし、ジャンキーになる危険も分かりやすくヤバい感じで落としてて、良かったと思う。

 最近、もしかしたらバトル漫画にしちゃうのかなって不安もあったけど、いつも通りの内容に戻ってきて、すごく安心した。
 ヒロポン回かなりよかった。