2022年10月15日土曜日

AIアートが流行の兆しを見せる今だから、こういう漫画が現れたのかもしれない。



『アビスレイジ』の成田成哲先生の新作『筋肉島』。
 基本的には、成田先生が読み切り・短期集中連載して伝説を残した『マッチョグルメ』と同じ、ボディビルを題材にした内容。
 と言ってもこちらは、現実のボディビルにフィクションを持ち込んだマッチョグルメとは違い、筋肉を題材にしたフィクションにボディビルを持ち込んでいるという感じ。
 練りこまれた筋肉ネタが爆発し、うどんを食べるだけで面白かったマッチョグルメの時とは趣を異にした、ある種の新世界冒険譚であり、内容的にはぶっ飛んではいるものの、その物語がまだ始まりを迎えてもいないこと、そして、筋肉的な明快さを持っているように見せかけている筋肉島の、数々の暗部・謎を窺わせる舞台の広がりに、これから待つ波乱を予感させる始まりとなっている。

 成田先生は格闘技やボディビルを題材にすることからもわかるとおり、人体の描写にこだわりのある作家で、今回はひたすらそれに注力することにしたというのが面白い。
 人が描く人体の美しさ、それを題材にした漫画作品としての魅力が溢れている。
 ここ数か月くらいで、急に出現したAIアートブームとそれによってもたらされる、美術・芸術界隈のディストピアな未来に、一石を投じる内容と言ってもいい。
 水は低きに流れるもので、それはいたしかたない。誰もかれもが、AIに頼んで自分の望んだ世界を描いてもらうことのできる時代が来るのだろう。
 しかし、ドラえもんの便利道具を安易に要求するのび太に成功の結末が用意されていないことと同じくして、そこには自己満足で完結し、その中身がからっぽのうつろな『データとしての絵』しか残されない。
 しかし一方、人体はそれぞれの持つ個性的な人格と、豊かな意思によって突き動かされ、美しく脈動するのだという明確なメッセージが、成田先生の漫画からは伝わってくる。
 この人は、こういう漫画が描きたくて、描いているのだ。
 そういう明確な意思を持った作品であることが、読み手に伝わってくるのは、結局は情熱と努力によって描かれたものだけだ。その情熱は描き手の数だけ種類があって、その努力には千差があって然るべきではあるものの、ただ一つ、低きに流れた水を飲む人間がまやかしをもってつくりだした『絵』には、その意思が宿らないことだけは確かだろう。
 AIが描いた絵でバズッた桃太郎もあるじゃん? と言いたい人もいると思うが、あれはAIアートを漫画に落とし込む努力を本人がしているし、その努力をした以上、それは漫画作品としての評価を受けることが当然だ。
 私は、AIで描いた漫画を否定したいわけではない。AIの漫画には、AI漫画の魂がやどればよいのであって、それが面白い面白くないというのは、読み手が判断すればいいだけの話である。
 ただ、人間がその情熱の求むるところに素直を以て描いている漫画作品には、特別の意思、魂とよぶべきものが宿ることは明確であり、それこそが大事であり、必要なことなのではないかと、今は考えている。
 そして成田先生の漫画には、いつもそれを感じる。
 筋肉=生! 筋肉=精神! 筋肉!=魂! 
 その部分が、今回も十全に発揮される作品となってくれればいいですねぇ。