2023年1月4日水曜日

ブルージャイアントは、読んでておもしろいんだけどね。


 

 映画あんま期待できねぇなって感じですけど。
 音楽マンガの流行が途絶えないことの原動力の一つには、今やとてつもなく巨大な金字塔となって聳え立つ『ブルージャイアント』の存在が、確かにある。
 その素晴らしさを言い表すに、金字塔という響きですら足らないかもしれないこの作品は、開始から相当の巻数を経た今も、ジャズというものに関わる人間たちを純粋な理想でもって描き続け、それはもはや、コミックという形をしたジャズ・ミュージックの伝説の一つであると評してもいいと思う。
 評してもいいと思うのだけれど、個人的な感想から言うと、もうそろそろ、ついていくのが難しくなってきたという感じ。
 これはブルージャイアントが面白いか面白くないかとかいう話ではなくて、ジャズというものの持つ音楽的な多様性の面において、私の好きな『ジャズ』とブルージャイアントが描く『ジャズ』のズレが、かなり大きくなってきていて、私自身が、ちょっとついていけなくなっているということに原因がある。
 
 作中でも折に触れて言及されていることではあるのだけれど、『ジャズ』という音楽は、本来あった姿から著しく変容し、元々において表現されていたものから無数に枝分かれした様々なジャンルに細分化されている現在がある。

 漫画『ブルージャイアント』で描かれるジャズの在り方は、その本道にある『ジャズ』を追い求めながらも、日々に新しくなり、歩みを進めるごとに変わりゆく己自身を、サックスというたった一つの楽器に託して世界に向かって叫び続けるダイ・ミヤモトという独りのジャズプレイヤーを通して、激しく、シリアスで、それを聴く人々の魂を揺さぶる音楽として表現されている。

 しかし私の中にある『ジャズ』というものは、それらとは少し違う。
 少し違うというか、『私の好きなジャズ』が、『ブルージャイアントで表現されるジャズ』の中にないのだ。

 私の好きなジャズのジャンルは、『フュージョン』や『スムース』というジャンルのジャズで、ミュージシャンによっては『アシッド』の曲も入る。
 これらは残念ながら、『ブルージャイアント』作中では、「本当のジャズではない」として、排除され続けている。

 私はそもそも、ブルージャイアント作中で列挙されるような、いわゆる『ジャズの巨人たち』の演奏を聴いても、まったくピンとこないタイプで、本当のところ、作者の石塚真一先生が表現しているものを、全然理解できていない人間の一人だ。
 それでも巨人たちの一人ビル・エヴァンスなどは非常に大好きではあるのだが、私が好みであるということは当然、作中では、ほとんどフューチャーされることがない。(実在の人物がことさらに重視されるストーリーではないのだが、リスペクトの対象や、作者の熱量がどういた人物たちに向けられているかは明白)

 そもそもブルージャイアントは『サックスプレイヤー(とその他)の物語』(おざなりにされるという意味ではない)であることは、さまざまに明示されていることでもあるので、そこに文句をつけるのではない。

 ただ、さきほども言ったように、そうすると、それは私の好みのジャンルではなくなるし、そもそも、80年代以降に生み出されてきたジャズとその潮流を否定することが物語の骨子であるために、自然と私の好きなジャンルが否定され続けるという状況が続いている。
 それは私にとって、読むたびに精神をむしばんでいく微毒を呷り続けるような状況であり、それを許容することは、耐えがたいとは言わないまでも、我慢を続ける意味を見出せなくなってきた、という状況に陥りつつある。
 誤解のないように敢えて言っておくと、私はブルージャイアントが嫌いだとか面白くないとか言っているのではなくて、私の好きなジャズのジャンルを否定してほしくないと言いたいのだ。残念ながら作中、それらが散見される現状、特に現行のブルージャイアントエクスプローラーを読み進めるのが難しくなってきたので、一度、慢性化し始めている『状態異常:毒』を一旦リセットするために、少しのあいだブルージャイアントを読むのやめようと思うので、この日記を認めるに至る。
 
 わかった? 実はここまでが前置きなんだ。

 さて。
 その区切りをつけるためにも、一度、私が好きなジャンルから、いくつかアルバムやミュージシャンなどを紹介しておこうと思う。いいと思ったら買ってねとか、そういうことではない。ただ聴いてほしいので、紹介する。

 まず一組目は、FLIGHT7。
 

 しょっぱなからクソドマイナーで驚くなかれ。
 めっちゃいい。
 このアルバムは、私がフュージョンというジャンルにハマることになったキッカケの一枚であり、いまだに個人的なフュージョン・ジャズ至高の一枚であることは疑いない。
 どういうわけでこのアルバムと出会ったかというと、それは『機動新世紀ガンダムX』がキッカケ。
 このアルバムには、女性ボーカルと男性ボーカルがそれぞれ参加していて、女性の方はローズ・リーデル、男性の方はウォーレン・ウィービーという。
 え? うそ……ウォーレン・ウィービー!? ってなる日本人が、今の時代、いるわけがないと断言する。この人の名前を見て、「お? マジで?」ってなった人は、相当なアニソンマニアか、そうでなければ業界関係者と思って間違いない。(ちなみに私は、そのどちらでもない)
 で、そのウォーレン・ウィービーって何もんじゃい! って話なんだけど、それがガンダムXの話に掛かる。
 ガンダムXはOP曲『DREAMS』『Resolution』がともに名曲であることを知られた作品であるけれど、ED曲だった『Human Touch』も間違いなくアニソン史に残る名曲である。これを歌っていたのが、ほかならぬウォーレン・ウィービーなのだ。
 ウォーレン・ウィービーは、残念ながらHuman Touchを歌った二年後に急逝してしまい、日本人にとってなじみのある存在にはなれなかったが、このメロウな歌声が、日本の音楽史に直接刻まれていることに感謝してもしきれない。
 私がアルバム『スカイハイ』と出会えたのも、ウォーレン・ウィービーの背中を追いかけていたからという理由で100%埋め尽くされる。しかもFLIGHT7というグループは、この一枚しかアルバムを出しておらず、これと巡り会えたことは奇跡としか言いようがない。
 
 二つ目は、ロニー・ジョーダン。
 



 ジャンルとしては、アシッドに入る人。
 個別の曲自体は別として、ロニー・ジョーダン自身は有名ジャズプレイヤーなので、ジャズが好きなら知ってるよねレベル。逆に、ロニー・ジョーダンを知らないあなたは、ジャズが好き、ジャズマニアを自称してはいけないよ?
 
 最後は、デヴィッド・ブラマイヤーズ。


 間違いなくフュージョン・ジャズでもトップレベルのアルバム。
 このアルバムとの出会いはちょっと特殊で、キーボードで参加しているBoko Suzukiという人が、ツイッターでワードルやってたのをたまたま見かけて「一体何者なんだ……」って名前検索したら、デヴィッド・ブラマイヤーズ・グループにたどり着いたという、アホのような、ほんとの話(笑
 ワードルにハマる外国人て、わりかし謎の存在やなってやってたら、デビッド・ブラマイヤーズって、なんじゃ。なんかパット・メセニーのグループでボーカルちょびっとだけ名前書いてあったのに、ぶ、ぶら、ブレメイヤー?とかそんな名前あったような気がする……で、聴いてみたら、なんだこのアルバム……という流れ。
 名盤、名曲との出会いってホント、奇跡のような奇跡があるもんなんだよ、という話。
 ただ、今はユーチューブやスポティファイなんかのおかげで奇跡の出会いが前よりしやすくなってるので、みんな頑張って(名曲との)出会い系音楽サイトとしてユーチューブを使えばいいと思うよ(

 こんな感じ。
 おわかりだろうか。
 私の『ジャズが好き』は、ブルージャイアントとは、あんまり相性よくない。
 ブルージャイアント作中でも、アシッドのグループが噛ませにされたり、ロスかなんかで、ダイの演奏聴いて帰っちゃうお客の描写あったりして、ちょくちょくショック受けるしで、地味に傷つくことが多い。しかも私自身は、ダイの演奏を聴いたら確実に帰っちゃうお客側であることを、よくよく自覚していたので、あの演出は、けっこうズシッときた。
 ショックを受けるというより、どちらかというと救われたという意味で。
 音楽というものが、個人の精神によって評価される以上、許容できないものは許容できんのだと、石塚先生はわかってくれている。
 だから私も、今は無理にブルージャイアントを読まずに、一旦、距離を置こうと思う。

 漫画自体は絶対面白いので、全然すすめしますけど。
 改めて言いますけど、ブルージャイアントは、ジャズの多様な魅力の一部分を人間という視点に絞ってフューチャーし、それを燃やし尽くすことによって、現代の日本人に『ジャズという音楽の力』を再発見させた偉作であると同時に、『紙の上で奏でられるジャズ』という新たなジャズ・ジャンルを切り開いた作品であることは間違いないと思うんです。
 でもだからこそ、ブルージャイアントを読んだ人、それによってジャズに興味が出たという人は、幅広く、ジャズというジャンルに触れあってほしい。
 
 私の場合は、ジャズって素晴らしい! とかって、泣いて叫ぶような楽しみ方ではないのだけれど、フュージョンをはじめとした、今でいうチルアウト・ミュージック的なジャンルがなければ、おそらくは人生に圧し潰されていただろう瞬間がいくつかあったので、これは、私の魂に刻まれた音楽なのです。

 ジャズは、まるでマンガの登場人物であるダイのように生きるしかなかった人たちの音楽であると同時に、私のような弱さを持った人間を包み込んでくれる音楽でもあります。
 ブルージャイアントを読んでピンとこなかったという人も、読んだけどジャズという音楽がわからんという人も、そしてここでわずかに挙げたものが肌に合わないという人も、ジャズという世界は果てしなく広がっていて、どこまでも奥深く潜り続けられる世界なので、あきらめずに聴き続けてほしいです。