人間の持つ特殊な才能――あるいは、障碍として認識されるそれ――の一つに、共感覚というものがある。
聴覚や色覚、視覚といった、本来は別々の感覚としてあらわされるものが、折り重なって知覚される現象のことで、人間にとって便利なものを才能といい、不便になるものを障害として区分けるする。
その中の一つとして、文字に色がついて見える共感覚というものがあり、これは倉井が若いころにネットで交流のあった人がそれであった。
自称ではあったが、それが真実であるかどうかに関係なく、世の中の人のいくらかには『共感覚』という個性があり、そういう普通とは違う世界を見ている人々がいるのだということを教えていただいたことが、貴重であった。
残念ながら、今は全くの音信不通である。
そのころから今に至るまで、共感覚という世界にはあこがれていて、その持ち主が苦痛と隣り合わせで生活しているという実感のこもった話を聞き知っていてもなお、その世界を見たいと思い続けているのであるが、最近、もしかしたら「ワシ、共感覚かもしれん」と思うようなことが見つかった。
ワシ、『々』の文字だけ太字?に見えてるわ。
……は?(オズワルド伊藤風に)
いや、ワシ、『々』の文字だけ、ほかの人より太字というか、濃いめに色ついてるように見えてるかもしれん。
……は?(ワシ自身の心の声)
いや、ワシ、『々』の文字だけ、ほかの人より濃いめに色ついてるようにみえてるかもしれん。
いや、普段からずっと、ひごろの生活の中で目にする『々』の文字が太いっつーか色が濃いっつーか、なんか妙に存在感を感じていたんだけど、先日、いろいろ町内会とか町内のPTAの会報(私の住んでいるところでは、そういうのがある)読んでたりしたら、やっぱり「々」の文字だけが濃くて太くなっていましてね。
それがクッソ気になっちゃって。
背中痛いのも合わさって、それに妙にイライラしましてね。
舌打ちしたあとに「なんかこの『々』のとこだけ強調するのどうにかならんのかね。繰り返しをアピールする目的なんかしらんけど、どうしてここだけ色濃くしてんのかマジで意味わからん。やめてほしい」
って言ったら、家族から「は?」って言われて。
共感性ゼロ。
「何が?」ってこっちが「何が???」だよ。
「いや、だからさぁ、この繰り返しのとこだけ、なんでこんなわざわざ強調してんの?って話」
って言ったら、「頭までおかしくなったか?」みたいな反応されて、もうこっちはまいっちまいますよって感じですよマジで。
「いや、『々』の文字太くない?」
「太くない……同じに見えるけど」
「色濃くない?」
「濃くない……同じに見えるけど」
みたいな話になっちゃって、マジで頭おかしいのかコイツらと思いましたよ。
明白に『々』だけ濃く印刷されてるやろこれ。
「されてない。大丈夫か?(頭)」
……ち、ちがうんだよぉ! 太く見えてるんだよぉ!
ってギャオって疲れて寝た。
寝てないけど。
なんか、太字っぽく見えてるのはガチなんだけど、なんか調べたら、まぁそういう人もおるやろレベルの話ではあるらしい。
色覚の異常があるわけじゃなくて、特定の文字だけ浮いて見えるとかそういうレベルの共感覚未満の特殊な認識を持った人は20人に1人くらいはいるんじゃねぇかというデータもあるらしく、なんか普通のことだった。
普通だったわ。
てか、々だけ太く見えてるからなんだっつーて、母にたしなめられた。
まぁ、そうっスよね。