2022年9月27日火曜日

ワシはきのこの山派。


 なんだこのキノコ。
 歩いてたらいたので調べてみたら、オオシロカラカサタケっぽい。
 きのこ図鑑というサイトの情報によれば、このキノコの毒性はかなり強く、食べないようにするには、謝らなければならないらしい……。



 えぇ……。
 恐ろしい……。

 文章を読むだけでゾッとする。
 倉井という人間は、元来が人に謝るということを知らない性質なので、このキノコに対しても、謝罪の意思を示すのは容易でない。
 しかも今回に関しては、人間相手ではなく、キノコに対して謝罪しなければならないのだ。
 どういうことだろう。
 キノコなどという、下等な存在に、高等生命体である人間としてさんじう余年を生きてきた倉井が、なぜ謝らなければならないのか。
 確たる理由があるのなら教えてほしい。
 いや、毒があるからというのは、わかる。
 非常にわかる。
 毒があるから、謝らなければならない。
 わかる。

 万が一コイツが人間と同等の意思と思考力を有した場合、食べたら嘔吐下痢などの、消化器系にダメージを与えてくる毒持ちであることは、生存競争においてこれほど有利なことはない。

 今年度、一部公園などで猛威を振るっているカエンタケなどというのも、メジャーな毒キノコとして知名度を上げてきているものの、あれはいわゆる一発屋というやつで、世の情勢(おてんきもよう)が落ち着けば、その生育範囲は著しく狭くなり、勢力としては弱体化する。
 しかしこのオオシロカラカサタケというやつらは、文字通りどこにでもいるのだ。
「みて! みて! こんなんおったわ!」
 って甥っ子にLINE送ったら、「毎年見る」って無慈悲に返されるくらいには、奴らは毎年毎年映えて来ては、そのエラのような傘を広げて胞子をとばしまくっているわけで。
 じつにかなしい😢

 甥っ子の代わりに無慈悲な返信をしてくる親族が、ではない。
 食べて滅することのできない存在、それらを擁する勢力がいることが、である。
 
 食べても食べてもなくならない食材があるわけがないというのは、わかっている。
 けれど、日々おいしいものを追い求める心、向上心あふるるシェフの仕業、板前の努力というものが、この世からあまたおいしい食材の可能性を削り取り、その未来を閉ざすことによって、人類は繁栄しているのだ。
 まちがいない。

 今世紀の日本人は、魚介類を主な食糧の一つとしているものの、すでに日本周辺の食糧海洋資源というものは、尽きかけているという研究者もいる。
 いますぐ禁漁して、5年後にやっと回復傾向が現れるのではないかという研究もあるらしく、このまま禁漁と養殖を行わなければ、ほとんどのお魚さんたちには絶滅の明日が待っているというのである。
 おいしく食べられるというのは、これほどまでに危険なことなのである。
 だが逆説的に言えば、『おいしい』というだけで、相手を絶滅させることは可能であるし、事実、人間というものは、おいしいというだけであまた生物を絶滅させてきた歴史がある。

 それは有史以前から始まっていたことで、人はおいしいというだけで、マンモスさんを絶滅させた。
 昔の人バイタリティすごすぎる。
 投げ槍だけで毛むくじゃらの巨象を殺しつくすとか、なかなかできないよ。
 わしがいますぐタイムスリップして、マンモスを追って氷期の海を渡ったモンゴロイドの一団に合流しても、そんなん無理。
 それは現代のマグロにおいても同様のことがいえる。
 漁船に乗って外洋に出た経験というものがないので、広い海にマグロを追って生活している人たちがいるなんて、はぁ~……ミナミマグロの大トロくいてぇなぁ。

 という感じであるものの、しかし食べられない奴ら、おいしくない奴らに、そんな心配はない。 
 おいしくないというだけで、奴らを絶滅させるのは不可能になってしまう。
 毒キノコには一部、
  1. 食べると死ぬほどうまい(死ぬ)
  2. 死んでも食べたくなるほどうまい(死ぬ)
といわれるキノコも大勢いるようだが、これらもやはり、毒がある分、積極的な食用には適さないことは明らかで、人間の側の一部冒険心に富んだ変わり者たちや、代用となる食品の用意できない厳しい環境にある人々の間で食される程度だから、結局絶滅させることなど夢のまた夢だ。
 毒があるキノコ、そして食べてもおいしくないキノコたちが、万が一人間と敵対的な存在となった場合、我々は彼らを食べつくすという最も効果的な攻撃手段を採ることができず、人間側は、なすすべなく蹂躙されるしかないのだ。

 となれば、やはり謝らなければならないのか。
 あんな↑写真撮影などしている場合ではなかった。
 早急に謝意を示さなければ、どうにかしてあのキノコがわが口元に忍び寄ってくるに違いない。
 そうなる前に、何としてでも謝らなければ。
 あのキノコ野郎に対して、倉井はどう謝るべきなのか。
 全く想像の埒外の出来事であるから、私はそれに対する答えをまったくもちあわせていなかった。
 
 謝罪しろ!
 キノコに対して、人類は謝罪しなければならない!
 菌糸のかたちづくるなにかねばねばしたものに、脳みそのしわを埋め尽くされて、はいつくばって投地の礼をつくすのだ!
 そうしてわしは、じんるいの有史以来、はじめて菌類に全面降伏した人間として、
 れきしになをのこすことになった。
 

 今日のフォントは、Yomogiフォントでした。
 これしぬほどすき。まるでベニテングダケのような中毒的シンプルさがいい。